ソーセージ屋のチェンソーマン
毎日通る道に、ソーセージ専門店がある。古い一軒家をリノベした店先にメニューが書かれた黒板ボードが立ててあり、飾り付けられたフェアリーライトがキラキラ光っている。ずっと気になっていたけれど中の様子が全く見えず、小心者なので入れずにいた。
「考えるよりまずやってみる」と今年の抱負を心で復唱し店前に立つ。思い切って引き戸を開けてみた。ガラガラガラ
お洒落なお店特有の薄暗さ。間接照明に照らされ、何種類かのソーセージが控えめにショーケースに並んでいるのが目に入る。
「はぁ...おしゃれ...」と感嘆の溜息をついたのも束の間「量、少なっ!高っ!!これで750円?!!」と庶民の感覚に上書きされそうになる。まごまごしていると随分と奥の方に、何やらパソコンに向かって作業をしているマスターの姿を見つけた。
全然こちらに気づいてくれない...。心が折れて帰ろうとした時、ようやくマスターが気づいてくれた。
「いらっしゃいませ」
小さな声で発せられた一言から柔和さを感じとる。ポツポツと丁寧にソーセージの説明を受ける。しーんとした店内にマスターの小声と私。場に耐えれなくなり、さっさと1つ選んで「これにします!」と指差した。
ソーセージを包みにマスターが奥に行き、1人になってたので安堵し、ぐるりと店内を見渡した。すると、お洒落な雰囲気の店内に草刈り機が立てかけてあるのを発見した。
ショーケースに並んだソーセージとお洒落な間接照明。コーヒーメーカーにつやつやのピアノと、草刈り機。「草刈り機!」
このお店の感想は「草刈り機があった」になった。自転車で帰りながらふと草刈り機を握った瞬間に豹変するマスターを想像する。
ごめんマスター、草刈り機はしまおうか。
買ったソーセージはとても美味しかったです。